

書体が多いと、うるさく見える正体
「フォントがうるさい」と感じるとき、一つひとつの書体が悪いわけではありません。それぞれは、単体で見れば魅力的な書体かもしれません。問題は、複数の書体が同じ紙面に集まったときに起きます。書体には、それぞれ性格があります。かっちりした書体、やわらかい書体、元気な書体。この性格が、種類の数だけ紙面に増えていきます。
たとえるなら、みんなが同時に話す会話のようなものです。一人ひとりは、いいことを言っているかもしれません。でも、全員が同時に、それぞれ違う声の大きさで話し出したら、聞き手はどの声を聞けばいいか分からなくなります。書体も同じで、種類が増えるほど、それぞれの「話し方」がぶつかり、読み手はどこに集中すればいいか迷います。うるさく見えるのは、この声の混線が起きている状態です。 会話の比喩が示すのは、異なる声が同時に主張すると注意が散ることです。書体数の適否は長さや目的で変わるため、「2種類まで」を普遍的な上限とは考えません。
だから、書体を選ぶときは、性格をそろえる意識が要ります。紙面全体の調子、つまり色や写真も含めたトンマナの一部として、書体の性格も一つにまとめる。声の主を絞ると、紙面は静かに、そして伝わりやすくなります。
どこで書体が増えるかを見る
うるさくならないために、まず自分の紙面で、どこで書体が増えているかを見ます。書体は、気づかないうちに増えていることが多いものです。次の表で、増えやすい場所を確かめてください。
| 書体が増える場所 | 起きていること | 向かう先 |
|---|---|---|
| 見出しごとに変える | 見出しAとBで別々の書体を使う | 見出しは1書体でそろえる |
| 強調のたびに変える | 目立たせたい語だけ別書体にする | 太さや大きさで強調する |
| 素材の寄せ集め | 配布素材の書体をそのまま使う | 自分の2書体に置き換える |
| 装飾で追加する | ロゴ風の飾り書体を足す | ここぞの1カ所だけに限る |
見出しを目立たせたい、強調したい、にぎやかにしたい、という目的ごとに別書体を足すと、同じ役割の声が増えます。まず何種類使っているかを数え、それぞれの役割を説明できるかを確認します。
同じファミリーの太さ違いは1種類として数えます。まず1ファミリーで階層を作れるかを試し、見出しと本文など明確な役割差が必要なら2種類目を候補にします。
書体を減らす直し方
増えている場所が分かったら、減らしていきます。効きめの大きい順に進めます。
- 1ファミリーへ戻す。 必要な文字と太さがそろう本文書体を選び、いったん全体を統一します
- 強調は、書体でなく太さと大きさで作る。 別の書体に変える代わりに、同じ書体の太字にする、大きくする。これで声をそろえたまま目立たせられます
- 見出しと本文の差は、大きさでつける。 書体を変えずに、文字の大小の開き、いわゆるジャンプ率で階層を作ります
- 飾り書体は、1カ所だけに残す。 どうしても使いたい飾り書体は、タイトルの一言など、ここぞの1カ所に限ります
手順の要は、いったん1ファミリーへ戻して不足する役割を見つけることです。2種類目を足すなら、その役を固定します。明朝とゴシックを使い分ける基準では、分類だけで決めず実寸で比べる方法を扱っています。
やりがちな、合わせ技で増やす直し
うるさいと気づいたとき、「もっと相性のいい書体を足そう」という案が浮かぶことがあります。ただし、同じ役割で書体が競っているなら、追加する前に1ファミリー版を作ります。
問題は数そのものより、複数の書体が同じ役割で競うことです。3種類でも役割が明確な短い作品はありますが、理由を説明できない書体は外します。影や縁取りを足す前に、フォントが安っぽく見えるのはなぜと同じく、内容と書体の一致を確認します。
迷ったら1ファミリーへ戻し、太さと大きさで表情を作ります。まず数えて役割を言い、説明できないものを減らす。この順番なら、必要な2種類目を判断できます。
書体を数えて、減らす
今日のワーク:1ファミリー版と比べる
手元の紙面を1つ選び、使っている書体と役割を書き出します。次に、1ファミリーの太さ違いだけで組んだ版を作ります。
- 本文に使える1ファミリーを残し、それ以外を置き換えます
- 元の版と、1ファミリーへ戻した版を並べて見比べます
どちらで見出しと本文の役割を追いやすいかを実寸で比べます。1ファミリー版で不足する役割が見えたら、その役を担う2種類目だけを検討します。
この作業を何度か重ねると、書体を足したくなったとき、ふと立ち止まれるようになります。「これは本当に別の書体が要るのか、太字で足りないか」と問えるようになれば、うるささは自然に遠ざかります。
書体を減らすと物足りなく感じたら、大きさと余白で表情を作った版も試します。同じ1ファミリーでも、見出しの大きさと周囲の余白を変えれば、書体を増やさずに役割差を作れます。それで目的の印象や機能を担えないと分かったとき、理由を決めて2種類目を足します。
実際の棚卸しでは、フォントファイルの数ではなく、画面や紙面で見える書体ファミリーと役割を数えます。太さ違いは同じファミリーでも、見出し、本文、注釈の役割が説明できるかを確認します。ロゴやブランド指定、数式、コード、多言語など別の機能が必要なら、3種類以上でも一律に誤りとは言えません。
Webでは、追加した書体の読み込み量、未収録文字の代替、読み込み前後のレイアウト変化も見ます。印刷ではライセンス、埋め込み、細い線の再現を確認します。1ファミリーへ減らしても必要な文字が欠けるなら、読みやすさと安定表示を担う2種類目には明確な役割があります。
比較を人に見せるときは「おしゃれか」だけでなく、見出しを最初に見つけられるか、本文を読み続けられるか、数字や名前を読み違えないかを確かめます。書体数を減らすのは目的ではなく、声の競合をなくす手段です。役割が伝わる案なら、少ないほど良いという競争にしません。
書体は、減らすほど声が届く
フォント数に普遍的な上限はありません。迷ったときは本文用の1ファミリーへまとめ、ウェイトで階層を作ります。それで表せない明確な役割があるときだけ、別の書体を加えます。種類の数より、同じ用途へ複数の書体が割り込んでいないかを判断します。
書体を絞れるようになったら、次は残した2書体を、場面に合わせて選び分ける力をつけると、選択が確かになります。次に読むなら、明朝とゴシックを使い分ける基準で、2大書体の性格を続けて確かめてみてください。
