

本を選ぶ前に、決める軸
本を選ぶとき、多くの人は「評判のいい本はどれか」から探し始めます。けれど、その前に決めておきたい軸があります。それは、「今の自分が、何に困っているか」です。この軸が定まらないまま名著を買っても、今の悩みと合わなければ、途中で読まなくなってしまいます。
本には、それぞれ得意分野があります。基礎の考え方をていねいに説く本、配色に特化した本、実例をたくさん見せる本、ソフトの使い方を教える本。どれも良い本ですが、向いている読者はちがいます。配色に困っている人が、ソフトの操作本を買っても、悩みは解けません。だから、選ぶ軸は「評判」ではなく「今の悩み」に置きます。悩みが軸になると、無数の本の中から、自分に必要な数冊が見えてきます。
たとえるなら、旅の道具のようなものです。持っていくものは、どこへ行くかで変わります。山に登るなら地図とコンパス、海へ出るなら海図。目的地が決まって初めて、必要な道具が決まります。本も同じで、行きたい先、つまり解きたい悩みが決まって初めて、選ぶべき一冊が決まります。目的地を決めずに道具を集めても、荷物が増えるだけです。 旅道具の例で分かるのは、目的により必要な本が変わることです。本の質や自分との相性までは比喩で決められないため、目次、見本ページ、演習の有無を確認します。
悩み別に、本を選ぶとき
軸が「今の悩み」だと分かったら、悩みの種類ごとに、向いている本を選び分けます。次の表を、自分の悩みと照らし合わせてください。
| 今の悩み | まず選ぶ本 |
|---|---|
| 何から学ぶか分からない | 目的・優先順位・余白など原則を扱う入門書 |
| 配色・文字・ソフトなど1点で困る | その1分野に絞った専門書 |
| 読んでも自分で作れない | 課題と比較例がある実践書 |
こうして見ると、本選びは「どれが一番いい本か」ではなく、「今の自分にどれが合うか」の問題だと分かります。基礎が不安なときは、まず考え方の本から。手を動かしたいときは、実例集や操作本から。悩みが変われば、選ぶ本も変わります。1冊読み終えて次の悩みが出てきたら、そのときまた、その悩みに合う本を選べばよいのです。余白や近接といった基本用語も、入門書の多くが最初に扱います。用語の意味は、余白や近接のような短い解説で先につかんでおくと、本の内容が頭に入りやすくなります。
よくある思い込み、名著から入る
本選びでよくある思い込みが、「まずは定番の名著から読むべき」というものです。でも、これはいつも最善とは限りません。
名著と呼ばれる本は、たしかに内容が深く、多くの人に支持されています。けれど、深い本ほど、前提となる知識を求めることがあります。まったくの初心者が、いきなり専門的な名著を開くと、言葉がむずかしくて進めず、「自分には向いていない」と感じてしまうことすらあります。実際、途中で挫折した本の多くは、内容が悪いのではなく、今の自分と段階が合っていなかっただけです。名著は、それを読める段階になってから、いちばん力を発揮します。
だから、入り口は、今の自分がすらすら読める本でよいのです。やさしい入門書から入って、物足りなくなったら、少しずつ深い本へ進む。段階を合わせて選べば、どの本も最後まで読めて、身につきます。センスは生まれつきではなく学べる、という考え方は、デザインのセンスは学べるでも扱っています。学びは、背伸びよりも、今の段階に合わせるほうが続きます。
あえて、本を買わない選択
本を選ぶ話をしてきましたが、あえて「今は本を買わない」という選択もあります。悩みによっては、そのほうが早いこともあるからです。
たとえば、悩みがとても具体的で小さいとき。「この一枚のチラシを、どう直せばいいか」だけなら、分厚い本を1冊読むより、その悩みにぴったりの短い解説を読むほうが早く解決します。本は、体系立てて学びたいときに力を発揮しますが、今すぐ一点だけ解きたいときは、遠回りになることもあります。また、まだ手を動かしていない段階で本ばかり集めても、読んだ内容が身につきにくいものです。まず作ってみて、つまずいたところで、その悩みに合う本を買う。この順番のほうが、本が生きます。何から始めるか迷っているなら、デザインを独学で始める最初の一歩から、手を動かす順序を確かめてみてください。
悩みを1つ、書き出してみる
今日のワーク:悩みを言葉にする
本を探し始める前に、今いちばん困っているデザインの悩みを、1つだけ紙に書き出してください。「色が決まらない」「素人っぽくなる」など、具体的な言葉で。
- 入門・専門・実践のどれで解く悩みかを決めます
- 目次、見本ページ、演習の有無を確認します
悩みを言葉にすると、無数の本が、急に選びやすくなります。目的地が決まれば、必要な一冊が見えてくるからです。
この一手間があると、書店やネットで候補を比べる軸ができます。表紙や評判だけで決めず、今の悩みと目次が対応しているかを確認できます。ただし、相性は実際に読んで試すまで分からないため、見本ページや演習の有無も判断材料にしてください。
本は、たくさん持つことが目的ではありません。今の悩みに合う一冊を選び、読んで、手を動かして、次の悩みが出てきたら、また選ぶ。この繰り返しで、少しずつ確かな力がついていきます。何十冊も積むより、一冊を悩みに合わせて選び、使い切る。そのほうが、独学はずっと前に進みます。
同じ一冊でも、読む時期によって受け取れる量は変わります。今はむずかしく感じた本も、しばらく手を動かしてから読み返すと、すっと入ってくることがあります。だから、合わないと感じた本を手放す必要はありません。今の段階に合う本を主役にしつつ、少し先の本を本棚に置いておく。その本が、あなたの成長を静かに待っていてくれます。
本は、悩みに合わせて選ぶ
デザインの独学本は、評判の高い名著を選ぶより、今の自分の悩みに合う一冊を選ぶほうが役立ちます。本には得意分野があるので、まず「今いちばん困っていること」を決め、その分野を得意とする本を選ぶ。段階に合わない名著で挫折するより、今すらすら読める本から入るほうが、学びは続きます。悩みが軸になれば、無数の本の中から、必要な一冊が見えてきます。
本の選び方が分かったら、次は、そもそもセンスは学べるのかという不安に向き合うと、独学の足取りが軽くなります。次に読むなら、デザインのセンスは学べるで、学びで身につく力の話を続けて確かめてみてください。
