

フォントを選ぶ軸、3つの順番
フォント選びで迷うのは、選択肢が多すぎるからではありません。多くの候補を、一度に、感覚だけで比べようとするから迷うのです。「どれがおしゃれか」だけで選ぼうとすると、どれもよく見えたり、どれも違って見えたりして、決められません。必要なのは、候補を段階的に絞る順番です。
順番は、大きいふるいから小さいふるいへ、という流れで考えます。まず用途で大きく絞り、次に印象で絞り、最後に読みやすさで確かめる。この順なら、最初のふるいで多くの候補が外れ、残ったものだけを次のふるいにかけられます。一度に全部を比べる必要がなくなるので、頭が混乱しません。
たとえるなら、服の色合わせのようなものです。クローゼットの前で、全部の服を一度に見比べても決まりません。でも、「今日は仕事だから落ち着いた色」と用途を決めれば、候補はぐっと減ります。そこから「この気分だとこの色」と印象で選び、「動きやすいか」で最終確認する。フォントも同じで、用途というふるいを最初に置くと、無数の候補が、扱える数まで減ります。 服選びの例が表すのは、用途から候補を減らす順番です。フォントには文字収録、表示品質、利用条件もあるので、印象だけで最終決定はしません。
用途で、フォントを選ぶとき
3つの順番を、具体的に見ていきます。とくに大切なのが、最初の「用途」のふるいです。何に使うフォントなのかで、向いている書体は大きく変わります。
| ふるいの順番 | 問いかけ | 絞られること |
|---|---|---|
| 1. 用途 | 何に使う?(見出し/長文/ロゴ) | 使う場所に向く書体の系統 |
| 2. 印象 | どんな雰囲気?(かたい/やわらかい) | その場に合う書体の性格 |
| 3. 読みやすさ | その場面で読める? | 実際に使える最終候補 |
まず用途です。長い文章に使うなら、読み続けても疲れない、落ち着いた書体が向きます。見出しやロゴなら、少し個性のある書体も使えます。次に印象です。同じ用途でも、かっちりした場ならきちんとした書体、やわらかい場なら丸みのある書体、と場の雰囲気で選びます。この場全体の雰囲気を、色や余白も含めてトンマナと呼びます。最後に読みやすさで確かめます。印象が良くても、その場面で読みにくければ使えません。この3段階で、候補は自然に数個まで減ります。明朝とゴシック、どちらの系統を選ぶかは、明朝体とゴシック体の使い分けが最初のふるいの助けになります。
よくある思い込み、珍しさで選ぶ
フォント選びでよくある思い込みが、「珍しい書体を選べば、おしゃれになる」というものです。でも、実はこれが、選びにくさと失敗の元になります。
珍しい書体は、目を引く候補になります。けれど、特徴が強い書体は、用途や文章量によって合う範囲が変わります。珍しさだけで決めると、読む条件や場の印象とずれることもあります。「もっといい書体があるはず」と候補を増やす前に、用途・印象・読みやすさの順で3案まで絞ります。書体で意図とずれる仕組みは、フォントが安っぽく見えるのはなぜで取り上げています。
思い込みを外すコツは、「選ぶ」より「絞る」と考えることです。無数の中から最高の一つを選ぶのではなく、順番でふるいにかけて、残ったものから決める。そう考えると、珍しさを追いかける手が止まり、用途に合う書体へ目が向きます。
あえて、定番を選ぶ
3つの順番で絞った結果、定番の書体が残ることもあります。定番は出発点にしやすい候補ですが、採用前に実際の文章と利用条件を確認します。
見慣れた書体は候補を絞る起点になりますが、分類や知名度だけで読みやすさは保証されません。迷ったら、日本語の必要文字と太さがそろうフォントファミリーを1つ選び、見出しと本文を太さ・大きさで分けます。実寸表示、利用ライセンス、Webフォントなら読み込み後の表示まで確認し、必要な役割がある場合だけ2種類目を足します。
用途から、絞ってみる
今日のワーク:3つの順番で絞る
今作りたい紙面を1つ思い浮かべて、フォントを3つの順番で絞ってみてください。まず用途、次に印象、最後に読みやすさ、の順です。
- 用途(見出しか長文か)を決めて、向く系統を選びます
- 印象と読みやすさで、候補を3つまで絞ります
順番でふるいにかけ、候補を3つまで減らします。感覚だけで全部を比べず、同じ文章と実寸で理由を比べられる状態を作るのが目的です。
この絞り方を何度か使うと、フォントを前にしたとき、まず「何に使うか」から考えられます。候補が多くて止まったら、用途のふるいへ戻ってください。
3つの順番は、覚えてしまえば、頭の中だけでも回せます。新しいフォントに出会ったときも、「これは何に向くか、どんな印象か、読めるか」と順に問えば、使いどころが見えてきます。たくさんのフォントを覚えるより、この絞る順番を一つ持つほうが、ずっと役に立ちます。道具の数ではなく、選ぶ順番が、フォント選びを楽にします。
順番で絞る力は、フォント以外にも効きます。色を選ぶとき、写真を選ぶとき、あらゆる場面で「まず用途、次に印象、最後に使えるか」というふるいは使えます。選択肢が多くて決められないと感じたら、一度に比べようとしていないかを疑ってみてください。大きなふるいから順にかけていけば、どんなに候補が多くても、扱える数まで減っていきます。迷いの正体は、選択肢の多さではなく、絞る順番のなさなのです。
候補を採用したら、実際に使う数字、記号、固有名詞、太字を含む見本を保存します。Webではフォントを読み込めないときの代替書体でもレイアウトが崩れないか、印刷では細い線や小さな文字が再現できるかを確認します。
採用した媒体と確認日も、見本へ一緒に残します。
同じ候補でも、短い見出しでは読めて、長い本文では疲れる場合があります。用途ごとの見本を分け、見出しで採用した結果を本文へそのまま広げません。役割が変わったら、同じ3つのふるいをもう一度通します。
フォントは、順番で絞れば迷わない
フォントは、長文、UIや小さな案内、短い見出しのどこで使うかを先に決めます。迷ったら1ファミリーを太さ違いで使い、実寸の読みやすさ、文字収録、利用条件を確認します。印象は、使える候補が残ってから比べてください。
フォントの選び方が分かったら、次は、明朝とゴシックという二大書体の性格を知ると、最初のふるいがもっと的確になります。次に読むなら、明朝体とゴシック体の使い分けで、系統の選び分けを続けて確かめてみてください。
