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第2話 · ミナのデザインやり直しノート

直したのに、よくならない

指摘された1カ所を直したら、今度は別の場所がおかしく見える。チラシの修正が終わらないミナに、アキラは紙を1枚ずつ遠ざけていく。第2話は「全体を見る」ことの話。

第2話「直したのに、よくならない」の場面

タイトルを大きくしたら、写真が小さく見えた。
写真を大きくしたら、今度は日付が窮屈になった。
1カ所直すたびに、べつの場所が「おかしい」と手を挙げる。

社内バザーのチラシは、もう4回作り直している。
直しているのに、よくならない。むしろ、最初のほうがましだった気さえする。


Scene 1 モグラたたき

夜の余白灯舎。中央制作卓の上に、ミナは4枚のチラシを並べた。第1版から第4版まで、ぜんぶ持ってきた。

「1枚目で『タイトルが弱い』って言われて、大きくしたんです。そうしたら2枚目で『写真が目立たない』って。3枚目で写真を大きくしたら、今度は『日付が読みにくい』……」

アキラは4枚を順番に眺めて、少しだけ笑った。ばかにした笑いではない。なつかしい、という顔だった。

「モグラたたきだね。ぼくも昔、ずいぶんやった」

「モグラたたき?」

「1匹たたくと、べつの穴から出てくる。きみは4回とも、言われた場所だけを直した。そうだろう?」

ミナは頷いた。それの何がいけないのか、まだ分からなかった。

Scene 2 紙が遠ざかる

アキラは第4版を手に取ると、ミナに持たせて、静かに言った。

「腕を伸ばして。もっと。そのまま、ひじが伸びきるまで」

チラシが遠ざかる。文字が読めなくなる。読めなくなって、はじめて見えてくるものがあった。紙の右上だけが黒々と重い。左下は、がらんと白い。全体が、右上に向かってかしいでいる。

「……かたむいてる」

「そう。1カ所ずつは、どれも正しく直っている。でも紙は1枚だ。タイトルと写真と日付は、同じ紙の上で場所を取り合っている。1人を大きくすれば、ほかの全員が動く」

読める距離では、部分しか見えない。読めない距離で、はじめて全体が見える。ミナは腕を伸ばしたまま、4回の直しが4回とも「部分の直し」だったことを、腕の長さぶんの距離で理解した。

アキラは紙をミナの手元へ戻した。

「遠くで分かるのは、全体の重さと順番まで。文字が読めるかは、この距離に戻して確かめよう」

ミナは小さな開催日を読み直した。全体を見る距離と、文字を読む距離は、同じ検査ではなかった。

Scene 3 見える灯は、つけない

「灯りで見せてもらえば、早いんじゃないですか」

制作卓の上の古い卓上灯を、ミナはちらりと見た。前に来た夜、視線の迷子を光の道にして見せてくれた、あの灯り。

奥の資料棚の陰から、トウカが顔を出した。

「……今夜は、いらない」

「え?」

「もう、見えてる。いま、自分で」

それだけ言って、また棚の陰に戻っていく。アキラが小さく付け足した。

「灯りは、見方を知らないうちの入口だよ。腕1本で見えたものを、灯りで確かめ直す必要はない」

ミナは第4版をもう一度遠ざけて見た。かたむいた紙面。取り合いをしている要素たち。直すべきなのは「弱いタイトル」でも「目立たない写真」でもなく、取り合いのルールのほうだった。

Scene 4 5回目の直し

その夜、ミナは5回目の作り直しをした。今度は、どこか1カ所を大きくすることから始めなかった。

まず、いちばん伝えたいことをひとつ決めた。次に、情報を3つのかたまりに分けた。かたまりの外側を広くして、端をそろえた。タイトルは、結局すこし小さくなった。それなのに、前よりずっと目立っていた。

腕を伸ばして、確かめる。紙は、もうかしいでいない。

「不思議です。小さくしたのに、目立つなんて」

「まわりが静かになったからだよ。大きさは、いつも周りとの差で決まる」

帰り道、ミナは駅前のポスターを、少し離れて眺めてみた。よくできたポスターは、遠くから見ても、かたむいていなかった。

次回予告

第3話「リオの投稿が伸びない夜」。SNSで発信を続けるリオが、余白灯舎に初めてやってくる。かわいいはずの投稿が並ぶと、なぜかごちゃごちゃして見える話。


ミナが5回目の直しで使った手順は、チラシが詰まって見えるのはなぜで、そのまま使える形に整理してあります。全体を見る順番そのものを知りたい人は、最初に見るべき5つの基本からどうぞ。